新潟地方裁判所長岡支部 昭和25年(タ)8号 判決
原告 山田久一郎
被告 山田豊
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は、原告と被告とを離婚する旨の判決を求め、その請求の原因として、原告は満洲ハルピンで陸軍軍属をしていた者であるが昭和十八年八月一日被告と婚姻し昭和二十年五月十四日長女節子が出生した。ところが原告は同年七月二十九日召集を受け新京の陸軍部隊に入隊し間もなく終戰となり、ソ連カラカンダヘ抑留せられ、昭和二十二年九月十三日ナホトカ経由で日本へ帰還した。被告は原告應召当時はハルピンの陸軍官舎に長女節子と共に居住していたが、原告應召後被告の消息は全く不明であつたが、昭和二十五年四月上旬被告から被告の実家の長兄小泉進一に宛て南支の第一線に元気で從軍して居る旨及び長女節子は昭和二十一年一月六日死亡した旨の書信があり、原告もその書信を見て被告の筆蹟に相違ないことを確かめることができたので、原告はその発信地宛数回手紙を出したが、いずれも送達不能で返戻された。以上の次第で被告は現在なお中国地内に健在であることは想像されるが、被告に対して婚姻継続の意思を確かめることもできず、又被告の帰還の有無や帰還時期等を予想することもできないので、原告は現状の儘で被告と婚姻を継続することは到底堪えられないから本訴に及んだと述べ、立証として甲第一号乃至第三号証を提出し証人小泉進一の訊問を求めた。
被告は現在中国に居ると認められるので本件訴状及び口頭弁論期日呼出状は公示送達を爲したが答弁書その他の準備書面の提出もなく弁論期日にも出頭しなかつた。
当裁判所は職権で原告本人を訊問した。
三、理 由
当裁判所が眞正に成立したと認める甲第一号証(戸籍謄本)と証人小泉進一の証言及びこれにより成立を認める甲第三号証(被告から小泉進一宛書信)並びに原告本人訊問の結果とを総合すれば前記原告主張の事実はすべて認めることができるが、その事実が民法第七百七十條所定の離婚事由に当るかどうかを考察するに、同條第一項第一号乃至第四号のいずれにも該当しないことは明白であつて、只同條第一項第五号の婚姻を継続し難い重大な事由と認められるかどうかである。この点につき考察するに、甲第三号証によれば、被告は自ら好んで中国に留まつて居るのではなく、むしろ一日も早く故国へ帰還することを希望して居ることが推認されるし、一面日本政府は勿論その他各方面に於て中国やソ連の抑留邦人の帰還について種々交渉が続けられていることは顕著な事実であつて、被告の帰還は必ずしも絶望とはいえないから、右原告主張のような事実だけでは未だ以て右婚姻を継続し難い重大な事由とは認められない。よつて原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 荒井重與)